<   2008年 03月 ( 5 )   > この月の画像一覧

女心と春の空

プラハに来て半年が過ぎた。

初めて超えたヨーロッパの冬は思いのほか厳しく、
何度か風邪をひき、灰色の空のお陰で光合成不足であった。

3月を迎え、しばしば気持ちの良い日差しと穏やかな風が吹く
暖かい日が訪れるようになった。

芳しくなかった調子もつられて、復調の兆しを見せている。


突如、


風は手のひらを返したように冷たくなり、
雲は日を隠し、雨を落とし始め、
やがて、雪となり、時に雹となる。

しかしその怒りも束の間、すぐに元通り。
優しい世界が帰ってくる。

面白いことに、この過程は混ぜこぜにやってくるのだ。

暖かい陽気の中、酷く冷たい風が吹き、
すごい勢いで前方から雨が近づいてきたり、
強い日差しの中、雪がちらつく。

雪は勢いを増し、ほほを打つ。
目を閉じてじっとしていると、いつしか太陽が戻ってきている。

飴と鞭を繰り返す日も多い。
女に振り回される男の如く、天気に振り回され、
一喜一憂する僕は、チェコ人から教わったことがある。


この激しい天気の移ろいは、”嘘みたいな天気”ということで

「Aprílové počasí」 (April Fool's Weather : 四月バカの天気)

と呼ばれ、毎年この時期に必ず訪れるらしい。
この時期が明けないと、本当の春はやってこないと言う。

彼らは春の為に、この天気と折り合いをつけ、長年付き合ってきているのだ。
突然現れる降雪の日々は、いつしか消えていく。
そうして、ようやく花々が安心して咲けるのだ。


そこまで来ている春の足音に、ふと梅雨明けの夏の匂いを思い出した僕は、
海の風がないチェコで無性に懐かしさを感じた。

こういう日は、やけにお腹がすく。

a0013368_11234223.jpg

[PR]
by chikara_mikado | 2008-03-29 11:36 | チェコのこと

鈍行で行く:スロヴァキアへの旅 1

遣る瀬無いここ数日の報告をしたいと思います。
ところどころ回想風に。

--------------------------------------------------------

今は、午前0時を回ったぐらいだろうか。
そろそろ2軒目に移りそうだ。

F氏は5年のオツトメを終え、3月20日の17:00に日本に帰国する。
日付が変わったので、今日はもう3月20日だ。

色々とお世話になったF氏の最後の酩酊会となれば参加も必然。
たとえ次の日に、朝一番の列車でスロヴァキアのブラチスラバに旅立ち、
大使館にて文科担当官に会うという用事があろうとも。

「HUSA」(パブ)→大人なBar→「ZERO」(小さなクラブ)とはしごして明け方5時。
アサ5ジダヨ。

F氏>後あと2時間で帰国。
ボク> 7:30の列車まであと2時間ちょい。
プラハ>冷たい朝に切れそうな空気。

家までは、約1時間の道のり。
一度家に戻り体をキレイキレイすることを考えると、かなり厳しい。

っと、トラムが目前で逃げて行く。
30分待ち確定。

もはや猶予はない。
せめて服を変えたい。

頭の中で何度もシュミレーションを繰り返します。


・・・


なぜか、風呂場で鼻歌を歌っているボク。
酔っ払いは無意識のうちに服を脱いで、風呂場に向かってました。
もうこうなったらやりたいだけやって、家を出ればいい。


・・・


当然ながら予定の列車には乗れません。
寒い朝、痛い頭と共にプラットホームで修業です。

小一時間後、ブラチスラバ行きではなくウィーン行きの列車がやってきました。
方向は一緒なので、途中で乗り換えれば大丈夫でしょう。
酒が残っていると気持ちが大きくなります。
皆さん気をつけてください。

チケットの確認に来た車掌さんに、なにやら金を払えと言われています。
どうやらこのチケットだけではご不満のご様子。
オーストリア帝国行きは、全席予約が必要ですかそうですか。

言われなき追徴金を払い、国境付近の駅Breclavで下車するボク。
すごくものさびしい駅。

というのも駅が、どこもかしこも工事中。
a0013368_6283079.jpg

ワハハー、ユキガフッテキタ。

とはいえ、まだ理性が残っているボクは、紳士風に駅員さんに尋ねます。

僕:「Bratislavaにはどう行ったらいいですか?」
駅:「エイゴワカリマセーン」

シット。

と、そこに同類の、つまりは少し顔が赤いオッサンが間に入ってくる。

オ:「どうしたよ?」
僕:「実はBratislavaまで・・」
オ:「それならここさ!」
僕:「ハヤッ。」

(なんか怪しいな・・、人のこと言えないけど。)
(後ろにいたお婆さんは、奥さんだろうか。)
(まぁ、夫婦なら平気かな。)


とりあえず、駅員さんも頷いてるのでここで待つことにした。
ベンチに腰掛け本を取り出す。
かじかむ手でページをめくっているうち・・

オ:「こっちだ!これだ!のれ!」
僕:「ちょ・・」
オ:「いいからのれ!」
僕:「ブラチスラバだよ?」
オ:「だいじょうぶだ!」
僕:「ブラチスラバだよ?」
オ:「だいじょうぶだ!」
僕:「ブラチスラバ・・」
オ:「まかせろい!」

自信満々に乗り込んでいきます。
つい流されて、弱気に乗り込むボク。

10分ほど経って、

オ:「ここだ!」
僕:「ンナアホナ。」
オ:「おりるんだ!」
僕:「あぁ、やってもうた。ただの酔っ払いだ。」
オ:「ここでのりかえだ!」
僕:「むむ。」

降り立った駅は「Lanzhot」。
チェコ側の真の意味での国境駅。隣のスロヴァキアまで10キロありません。

時刻表を見ると、確かにブラチスラバ行き列車がここを通ります。
次の列車は20分後です。

ヤッタネ!

オッサン、ありがとう。
じゃあ、バイバイ。

と思いきや、

オ:「こっちだ!」(待合室へ)
僕:「ちょ、、」
オ:(待合室のベンチに座った奥さんに荷物を渡すして、)「いくぞ!」
僕:「ど、どこへ?」
オ:(ニヤッ)

あはー、駅の裏手にさびれたパブがある。
オッサンは迷わずそのパブに猪突猛進。

(勘弁してくれよ・・)

ドアは当然閉まっている。
なぜなら、今は午後12時を回ったところだからだ。

(無駄なことはよせ。つーか、酒なぞいらぬ。)

という淡い希望もすぐに敗れ、
眠そうなランニングの太っちょが、やけにお似合いのマルチーズとお出迎えだ。

オ:「ぐへへ、おせーじゃねーか。のませろい。」
太:「しょーがねーな。その横のは誰だ?」
オ:「おれのつれだよ。」
僕:(なにこの展開・・)

太:「ビールでいいよな」
オ:「おうおう」
僕:「もうなんでもいいっすよ」(日本語で。)

満足そうにうなずくオッサン。
a0013368_6303973.jpg


太:「50KCだぞ」
僕:「僕払いますよ。」
オ:「ん、なんでだ?」
僕:「まぁ、案内してもらってるし・・」
オ:「そうか、じゃらむもたのむ。」
僕:「・・・」
オ:「がはは、じょうだんだよ。」

オ:「いやいやじょうだんだって、らむはおれがだしてやる。」
僕:(にこにこしながら日本語で)「いらんわ。」

満足そうにうなずく面々。
a0013368_6312061.jpg


あと5分の辛抱だ。
次の列車に乗れば、黙っててもブラチスラバだ。

アマカッタ・・
a0013368_632511.jpg


お前、どう考えてもこれはローカル電車じゃないか。
チンチン電車やないか。


オ:「のれ!」
僕:「ブラチスラバ・・・」
オ:「だいじょうぶだ!のれ!」
僕:「本当につくんですか?」
オ:「もちろんだ。」

ハイ。
お次の駅は「Kuty」。
こんどは、スロヴァキア側の国境駅ですねー。

だいぶいい気分ですよー。
ラムを2杯とビールですよー。
明け方までの酒も残ってますよー
眠いですよー。

オ:「おまえのじゅうしょをおしえてくれ。てがみをおくりたい。」
僕:「はいはい。いいっすよ。」
オ:「わはは、おまえいいやつ。」

オ:「じゃ、おれここだから。」
僕:(もう驚かない)「あ、そう」

オ:「つぎのにのればぶらちすらばだから。」
僕:「はいはい、だうも。」

(去ってゆく老夫婦、残された酔っ払い青年)

僕:「すいませーん、ブラチスラバ行きの列車はどこから出ますかー?」
周囲の人々:「コソコソ」
僕:「スイマセーン!スイマセーン!」

若い女:「こっちよ」
僕:「ありがちょう!」

ついに、ついに、ブラチスラバ行の列車に乗ることができた。
無駄な乗り換えを重ねること3回。
見知らぬオッサンと仲良くなり杯を交わすこと3回。
先ほどまでの雪が嘘のように、晴れ間がのぞいた。

天が祝福した。

ちなみに、ボックス席の隣に座ったその若い女(カテリーナ:英語教師)も、
真正面に座ったお爺さん(ステファン:オーストラリアに移住していたスロヴァキア人)とも番号とアドレスを交換し、国際交流を果たしたのであった。


これが旅ってもんだね。


さて、ここまでが前半です。
時刻はまだ13:45。
酩酊度70。




ちなみに、プラハ→ブラチスラバは往復で729kc(約4500円)、直行便が出ている。
その場合、約4時間10分で到着となる。
[PR]
by chikara_mikado | 2008-03-23 06:49 | 旅行

勝訴 その2

前回までのあらすじ:

「ブーッ、ガシャッ」

「OUT OF CONTROL, HAHAHA!」

(おいおい、ふざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ。)

a0013368_975833.jpg





というわけで、券売機の裏手にあるオフィスの窓口に話をつけに行く。
ここのおっさんは腹が出ていた。ビールっ腹に違いない。


僕:「あのー、今切符を買おうとしてお金を入れたら、機械が閉まっちゃったんですけど。」

腹お:「ハァ?」

僕:「いいですか。切符を買おうとして、お金を入れたら、機械が閉じた、ってわけなんです。」

腹お:「ん?おぉ、それで?」

僕:「いやだから、お金返してほしいんですけど。」

腹お:「ここにはお金はないよ」

僕:「え、いや、ちょっと。困りますよ。」

腹お:「何番の券売機?」

僕:「見てきます。」

-----------------------------------------------------

僕:「PID473番です。」

腹お:「ふーん。じゃここに名前と住所書いて。」

僕:「なんでですか?今ここで返してくれればいいだけでしょう。
   僕は事実、お金を入れてるんですよ。彼が証人です。」

僕は、後ろに並んでいた青年に頼んで窓口まで一緒に来てもらっていた。

青:「確かにそこの人、買ってたよ」

僕:「ほら。返してくださいよ。」

腹お:「ここにお金はないんだ!」

(んなばかな)

青:「俺用事あるから帰るわ、グッドラック。」

僕:「ちょっ・・。ま、いいや、金返してくれ。あんまり時間がないんです。」

腹お:「無いモノは無い。それに、僕たちは雇われてここにいるんだ。
    文句があるなら上層部に伝えてくれ。」

僕:「ゴゥルァァァァァァァァ」

女:「どうしたんですか?」

僕:「カクカクシカジカ」

女:「[@\^-]:;\/,[@[p-\^;:..\」

腹お:「[@p^-\ohlplhp@okio\@--p\/.,」

女:「ここには本当にお金がないんだって。
   このカードの所に電話するのがよさそうよ。」

僕:「おいおい。いい加減にしてくれよ。いったいどうしろってんだ。」

女:「あなたは神を信じる?」

僕:「・・・、いや今はムリ。」

女:(悲しそうな顔をして)「そう、じゃあね。グッドラック。」

僕:「ハァー・・」(あぁ、八当たりをしてごめんよ、お姉さん。)



渡されたカードを見ると、そこにはPrague Public Transit Companyのinfolineとある。

(腹おの奴、俺をたらい回しにする気か!)

僕:「もしもし。今、Narodni trida駅で切符を買おうとしたら・・カクシカ」

info:「その案件なら、こっちの番号ですね。掛けてみてください。」

(キタキタ。案の定盥回しね。とことん付き合っちゃうよ、ボク。)

僕:「もしもし、カクシカ。」

info2:「^\j@j@ghlg^hj:k\??????」

(チェ、チェコ語オンリーか・・。ふざけおって。)

僕:「あのさぁ、どうなってんの?問題解決に対して全く前向きさを感じられないよ。」

info:「そんなことありません!」

(ブラブラブラと長いアピールが続く)

僕: 「で、どうしたらいいわけ?どうしてくれるわけ?」

info: 「駅の窓口で名前と住所を書いてください。調査の上、1~2ヶ月後返信致します。」

僕:「調査て、、2か月て、、 ( ゚д゚)ポカーン」

(もういいや。名前書いて住所書いて終わりにしよう。)
(家帰ってパスポート取って来て、定期買わねば。)

僕:「名前と住所書きます。ペン貸して下さい。」

腹お:「プイッ」

僕:「もういい加減にしろ」

通りすがりのお婆さん:「どうしたの?」

僕:「カクシカカクシカ」

通婆:「そらー、あんたね。絶対に戻ってこないよ。
    アタシャ、ここでの暮らしは長いけどね、そりゃ無理だよ。」

僕:「・・・、もういいんです。戻って来ようが戻らまいが。
   できるだけのことはしておこうかと。」

通婆:「偉いわね。アタシだったらすぐに諦めちゃうわ。」

通婆:「[@pu\^-089@lp/:\/.[;p@\」

腹お: (すごく嫌そうな顔で) 「どうぞ」

僕: (こいつ・・)「書いたぞ。どうすんだ?」

腹お:「調査報告が送られてくるんじゃない?」

(なぜ、疑問形?まぁもう、期待しないで待ってるよ。)


というわけで、もうダメ元で名前と住所と金額を書いたわけ。
そう。金額はたかだか100kc(600円くらい)。

もう金額の問題じゃなくなってた。
負けず嫌いの根性がもう前面どころか全面に出てた。
やり場のない怒りと徒労感で白髪が増えた。
俺の周り、半径3センチくらいは雪も溶けていただろう。

一応、1月7日のその後のことを書いておこうかと思う。

1時間かけて家に戻り、家の最寄駅でまた並んだ。
30分ほど待ったところで、窓口のブラインドが唐突に降りた。
周りの人に聞いても、皆意味がわからない。

なのに、並んでる。
そうか、ここの人達は並ぶのは得意だったか。

再開する気配の無さに泣きそうになった僕は、
プラハ中央の大きな駅に場所を移し、もう一度窓口に並ぶことにした。

待ってる人数、およそ50人ほど。
最後尾が見えない。

たっぷり3時間近く並んで、ようやく念願の代物を手に入れる。
一年間の定期だ。これで当分、並びからは解放される。

僕が定期を手にしたその瞬間、ここの窓口のブラインドも落ちた。
これは中の人の都合で唐突に起こり、いつまた窓口が再開するのかがわからないという、
長時間並んで待っていたことを嘲うかのような、非人道的行為なのだ。
就業時間みたいな概念は、この日のプラハには皆無であった。

後ろのおばさんは、泣き出しそうだった。
まるで、まな板の上で蜂に刺されて泣きそうな鯉の胃袋にいるタニシみたいな顔だった。

そう、この日僕は朝9時に家を出て、「定期を買うってこと」だけを目標に一日を過ごした。
定期を手にしたのは午後7時を過ぎていた。
ま、定期の話はメインじゃないんでこのぐらいにして・・





そして、冒頭の手紙が届く。
あれから2か月が経とうとしている。

a0013368_9334440.jpg


たまに思い出すことはあっても、深くは考えず流していた。
正直忘れていた。

しかし手紙の内容は、こちらの言い分を完全に認め、
謝罪の言葉とお金を返す旨がしっかりと綴られている。

なんて清々しいんだ。
安堵と歓喜に包まれた僕が、ふと考えたのは・・

手紙にはそう書いてあるのに、実際のお金はまだ手元に戻っていない。
まだ闘いは続く・・のか?

a0013368_9322097.jpg

[PR]
by chikara_mikado | 2008-03-12 09:37 | チェコのこと

勝訴 その1

3月7日(金)、Prague Public Transit Companyこと(プラハ公共交通公社)から
一通の手紙が届いた。

a0013368_2082553.jpg


親愛なる紳士淑女様

2008年1月7日、我々は自動券売機PID473号に対する貴方の申し立てが
正当であることを認め、100kcの郵便振り替えを仲介業者を通じてお届けします。
機械の誤作動によりご迷惑をお掛けしたことをもう一度お詫び申し上げます。

草々

Vaclav Kudrna



1月7日のプラハは雪であった。
その日の午前中、僕は駅員と口論していたんだ。

一日券の切符を買おうと券売機にコインを入れ、まさに全て入れ終わったその瞬間、

「ブーッ、カシャッ」

と音がして、何かがデジタルで表示されたんだ。


「THIS MACHINE IS OUT OF CONTROL ( ´_ゝ`)」

「・・・」


おいおいおいおいおいおいおいおいおい。
これは何の冗談だ?
何の演出だ?
誰の貯金箱なんだ?
しかも、なぜ全部のコインを入れ終わった後なんだ?
遠隔なのか?

と、あまりのナイスタイミングに吹き出し、そして怒りが頭を3周した。
そもそも普段は定期券の僕が、
なんで一日券なんか買おうとしてたのかってことから、この話は始まる。


2008年1月1日から、プラハの公共交通料金が値上がりした。
いつ導入するかもわからないユーロを念頭においてなのか、
庶民を苛めてるだけなのかは知らないが、結構な値上げだと思う。
また、チケットの種類も変更となった。

プラハには、バス・トラム・メトロ(地下鉄)の交通機関があり、
チケットはすべて共通である。

2007年は、

チョイ乗り:14kc(短い区間を限定的に乗るためのもの)
基本券:20kc(最も使用頻度の高い75分乗り放題チケット)
1日券:80kc
3日券:220kc
7日券:280kc
15日券:320kc

だったのが、2008年になると・・・

チョイ乗り:18kc
ベーシック:26kc
1日券:100kc
3日券:330kc
5日券:500kc

3日券と5日券に何があった・・?
確かに、以前は安すぎる感があったが、いきなりこれはないでしょ。
中長期旅行者からどんだけボッタクルつもりよ。

値上げラッシュは、交通料金だけに限らず多分野に渡り、
冬場なのに僕はしょっちゅうかき氷食べたあとみたいになってたわけだ。

そんな1月5日、当たり前のように唐突に僕の定期券は息を引き取った。
あまりに静かすぎて全然気が付かなかった。

気が付いたのは2日後、例の1月7日だ。

大学に用事があった僕は、雪が降っているにも拘らず朝早くに家を出た。
諸々の打ち合わせや確認を済ませた後、定期を買うべく
大学近くのMustek駅に向かったんだ。

この時点で、たかが定期券を手に入れるのがあんなにも難しいとは思わなかった。

僕の前には10人ほど並んでいる。
この国では「並んで待つ」ということは、「溜息をつく」ほどによくあることで、
ちょっとやそっとじゃ誰も不平不満を漏らすことはない。

30分ほど待った後、係のおっさんに
以前と同じように3か月の学生定期が欲しいと伝えた。

僕の国際学生証を受け取ると、型遅れのコンピューターに読み取り、
以前の価格の倍額を請求してきた。


僕:「ちょ、いくらなんでも高くないかい。オイラ学生よ。」

おっさん:「ふーむ、カードを見るに学生っぽいけど、よくわからん。
      コンピューターがこうだと言ってるんだから、この値段だよ。」

僕:「っぽいんじゃなくて、学生だって。」

おっさん:「いやいや、違うみたいよ」

僕:「だってこれほら、プラハの大学の学生証。」

おっさん:「しかしコンピューターが!コンピューターが!コンピューターが!」

僕:「じゃとりあえず、やめとくわ。カード返して。」

おっさん:「しかしコン・・」

僕:「カエシテ。」


なぜか、以前と同じ定期を買うことは許されない様子。
確かに値上げ政策による多少の価格上昇は予測していたが、
いきなり倍額はおかしい。はて。

嫌な予感がする。踏まれて汚れて溶けた雪が靴に染み込んできそうだ。
大学に戻って、学生課の職員に相談すると交通機関のHPを調べてくれた。

職:「学生もしくは26歳まで、ってなってるわよ」

そうなのだ。

学生であっても年齢制限に引っ掛かる場合は一般料金になるのだ。
しかし、この時点で2週間ばかり前に26歳になった僕としては、
「26歳まで」というのが"25の間"だけなのか"26もOK"なのか、
非常に気なるところであった。

そして、もう一つ嫌なことが発覚した。
外国人が長期の定期券を買うには、顔写真とパスポートが必要なんですと。

しかも本家。

この悪天候のなか、あの田舎にある自宅まで引き返すのかと思うと、
あまりのストレスで目の前がチカチカした。

いや、雪が降ってた。


さて、自宅に戻るためにはチケットが必要。
験担ぎも兼ねて、今度はNarodni trida駅から帰ることにした。

念には念をいれ、値段の設定上3回よりも多く乗車するなら元が取れる
1日券を買うことに決めたのである。


つづく。
[PR]
by chikara_mikado | 2008-03-08 20:21 | チェコのこと

チェコ市民・ハヴェル

Občan Havel (Citizen Havel) という映画を観ました。
ヴァーツラフ・ハヴェルが主人公のドキュメンタリーフィルムです。

チェコスロヴァキア大統領を経て、チェコ共和国初代大統領となったあの人。
作家、戯曲家としての顔も持つ。

a0013368_21513371.jpg


2005年、Ceska Televizeの調査による、
「最も偉大なチェコ人100人」で第3位に選ばれた御方。

ちなみに、

1位:カレル4世
2位:トマーシュ・マサリク
3位:ヴァーツラフ・ハヴェル
4位:ヤン・ジシュカ
5位:ヤン・コメンスキー

となっています。

ハヴェルさん以外の4人は、とっくに空の上なので、
現人神的なのは彼だけです。

ただ、神と言うにはあまりに庶民的で、
国民から近しい存在として愛される、
ビール好きのヘビースモーカーな71歳であります。

安部公房も好きらしいです。

しかし、若かりし頃の彼は1968年の「プラハの春」後に、
反体制運動の指導者として活躍。
また、人権抑圧に対する抗議・ヘルシンキ宣言の人権条項の順守を求める、
「憲章77」の発起人となる。

何度も逮捕され、投獄もされた。

そして、過酷な獄中を妻の手紙と自分の正しさの「確信」を支えに、
生き抜いた叛骨の人であります。

と、革命までの20年を5,6行で記すとは、端折りすぎだと
チェコ人から石を投げられそうですが、とにかくすごい人気。
大統領を2期務め引退した後も、ご意見番としてメディアに度々出没します。

1993年、チェコスロヴァキアが解体したビロード離婚後、
チェコ共和国初代大統領を選任する少し前からこのドキュメンタリーは始まります。

監督であるパヴェル・コウトツキーは、2006年の撮影中に事故で他界、
彼の友人であるミロスラフ・ヤネクが編集し、この作品を完成させた。
1992年からハヴェルの記録を撮ることに本人から賛成を貰ったそうな。

ってことは、なんだ。

13年分だか14年分を一挙大放出ってわけか。
これは貴重ではないですか!


と、ふと「ヨコハマメリー」を思い出す。

a0013368_21543981.jpg


この作品を撮った監督とは、チェコ映画祭が縁で知り合い、
地元が同じこともあり仲良くして頂いてるんだが、
この作品もまた構想・制作に10年以上を費やしているとか言っておられた。

ドキュメンタリー映画って、テーマの着想もされど、
長期間の撮影に耐えうる忍耐・気合みたいなものも必須だと思う。
そして、商業的な目的で撮るのではなく、自分の興味や好奇心、熱意を
映像化させるために、一心不乱になれなくては。

でも、かえってそういったモノが、人々に認められる。
でも、人々を意識するとダメになっちゃう。

難しいですよね。


そんなわけで、ハヴェルの13年を90kc(約540円)で観せてもらった。
なかなか良い買い物だったと思う。

政治的な場面が多く、彼の葛藤や周りの環境の変化が、丁寧に描かれていた。
それでも、スクリーンから受けるハヴェルの印象はとても人間的だ。

温かみがある。ユーモアも、毒もあるが、憎めない。
ハヴェルの一挙手一投足に、劇場は笑い声が響き、溜息が洩れる。
そして、観客が彼を愛すように、彼もまたチェコを国民を愛していることがわかる。

よれたジャンパーを羽織ってパブにいたとしても、果たして見分けがつくだろうか。
プラハの街中を普段着で歩く彼は、きっと今日もビールを飲むのだろう。

どこかですれ違いたい。



今よりも大分スリムな若かりしクラウスが、
ハヴェル・チェコ共和国初代大統領の誕生を握手で祝福する場面があった。

観客は大爆笑だった。
[PR]
by chikara_mikado | 2008-03-05 22:15